ブラッドベリ『霧笛』舞台を見る

先日の夜、海の家で行われたブラッドベリ原作『霧笛』の舞台を見てきた。
役者二人だけの芝居に生の音楽がつくという仕掛けで、夏が終わって普段は閉鎖されている海の家の二階がステージとして使われていた。
知人と一緒に階段を上がると二階の真ん中に出た。壁に沿って置いてある椅子に座ってみるようになっている。自然に向かいの人と顔を合わせる状態になるので、ちょっと緊張した。
その日は風があり、外からは波が荒々しく打ち寄せる音が響いていた。
うわあ、これはまさしく『霧笛』のあの灯台じゃないか!
私は初めて見ると言う知人に、前日偶然手に入れた萩尾望都のブラッドベリ短編集を手渡して読んでもらった。「これ、どうやってやるんだろうねえ?」読み終わった友人が尋ねた。

レイ・ブラッドベリ『太陽の黄金の林檎』(小笠原豊樹訳/ハヤカワ文庫)に所収の『霧笛』は、25ページほどで終わってしまうとても短い物語だ。おととしからブラッドベリに初めて触れることになり、その文章と広がる世界の繊細さに惹かれていた。

 

『霧笛』は暗い半島の先の灯台が舞台。灯台守の男「ぼく」とその先輩に当たる「マックダン」が、あるものに出会う物語だ。誰も人のいない寂しい灯台で、波の音を聞きながら二人は話をする。響き渡る霧笛の音を聞きながら、マックダンはある幻想を「ぼく」に語りかける。

「その昔、ひとりの男がやってきて、陽のあたらぬ冷たい岸辺に立ち、大海原の轟きのなかで、こう言った。 『この水を越えて、彼らの船に警告する声が必要だ。わたしはそういう声を作ろう。あらゆる時間と、あらゆる霧を、一つにこりかためたような声をつくろう。夜もすがら、きみのかたわらにある空っぽのベッド、きみがドアをあけても誰もいない家、葉の落ちた秋の樹木、そういう声を作ろう。南めざして啼きながら飛んでいく渡り鳥にそっくりの音だ。十一月の風に似た音、硬い冷たい岸に打ち寄せる波に似た音だ。だれひとり聞き逃すことはあり得ない音、それを聞いた人の魂が忍び泣きするような音を作ろう。遠くの町で聞けば、家の中にいることが幸運だったと感じられるような音だ。そういう音と、その音を出す機械を作ろう。人はそれを霧笛と呼ぶだろう。それを聞いた人は、永劫の悲しみと人生の短さを知るだろう』」  

霧笛が鳴った。 

『太陽の黄金の林檎』(小笠原豊樹訳/ハヤカワ文庫)


“One day many years ago a man walked along and stood in the sound of the ocean on a cold sunless shore and said, ‘We need a voice to call across the water, to warn ships. I’ll make a voice like all of time and all of the fog that ever was. I’ll make a voice that is like an empty bed beside you all night long, and like an empty house when you open the door, and like trees in autumn with no leaves. A sound like the birds flying south, crying, and a sound like November wind and the sea on the hard, cold shore. I’ll make a sound that’s so alone that no one can miss it, that whoever hears it will weep in their souls, and hearths will seem warmer, an being inside will seem better to all who hear it in the distant towns. I’ll made me a sound and an apparatus and they’ll call it a Fog Horn and whoever hears it will know the sadness of eternity and the briefness of life.”

The Fog Horn blew.

深夜、霧笛に呼び寄せられるように現われたその「もの」に「ぼく」は衝撃を受ける。

役者は男性と女性一人ずつで、体の隅から隅までぴんと意識を張り巡らせているのがよく分かった。暗い部屋で二人が交互に「ぼく」と「マックダン」を演じ合い、わずかな小道具のランプやスーツケースだけで灯台の物語を展開させていく。途中でサンバの音楽が入って陽気になったとき、調子が変わり過ぎたり、向かいの人の顔が気になって一瞬置いて行かれそうになったが、すぐその後にクライマックスの静けさがやってきた。
芝居が終わったかと思われた後、役者の男性がおもむろに海の家の窓を一つ一つ開け出した。すると、海辺へとゆっくりと向かっていく役者の女性の背中がライトに照らされて見えた。吹きすさぶ風のなか、皆で窓から顔を出してそれをじっと眺めていた。
暗転。波の音だけが割れて砕けて残る。それまで世界に着いて行けなかった人も漬かっていた人も、全員が拍手を贈る。
風のせいで雲の切れ間から星がよく見えた。私は「あれ、カシオペアじゃないですかね」と知人に指差した。星を見るのは何だか久しぶりだなあと思った。知人の反応が怖かったけど、「演出よかったよ、あれやるの役者も大変だよね」と言ってくれて嬉しかった。少し気に入らないところもあったけど最後のシーンはよかった。
生の声であの美しい台詞が語られるのを聞いてみたかったから、見に行ってよかったな。

あ、あとツィッターでは言いましたがパシフィック・リムのビジュアルブック、米amazonから買った!!豪華!!!まだ読み切れないくらいの情報量。プロパガンダポスターつきで楽しいです。



やったー!
というわけで今勉強中。まだ続編のめどは立ってないけど、続編脚本もギレルモ・デルトロ監督が書き始めているようで、ぜひ実現してほしいもの。だけど後日談よりは、KAIJUが攻めてきてからの前日譚が見たいなあ。たくさんいた前世代のイェーガーのパイロットや、若いころの主人公たちの話が見てみたい。
下は先月初めにデルトロが作ったSimpsonsのホラーバージョン。ホラー映画のオマージュになっている。しょっぱなから後ろでイェーガーがKAIJUと戦ってたり、ヘルボーイがいたりと自由すぎる!
(そこそこブラックでグロいのもあるから苦手な人は注意だよ!)


いくつ当てられたかな?
さて、ついに差し迫ってきたDW50thスペシャルについても書きたいけどまた今度。日本でも公開してくれよおお(涙目)!!!

それと、前に言っていた翻訳家の古屋美登里先生の学生向け夏の読書リストが『翻訳ミステリーシンジケート』のブログで公開されました。興味がある方はどうぞ~。
・本の世界の扉の鍵を―読書リストに寄せて

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