新しき世界/水底で息をするということ
突然ですが、韓流にはまりました。唐突にはまりました。というか、2月からはまっていました。この『新しき世界』のファン・ジョンミン見たさに。
2月1日が日本公開初日だったのですが、悲しいかなこちらで見られたのは4月になってからでした。その間私が何をしていたかというと、かけめぐる情報のみを眺めては血の涙を流しながら堪え、情報を追ううちにジョンミンにはまり、関連作をレンタルビデオ店で借りてきて観賞し、あるいは買い、雑誌を入手し(読めない)、韓国語のテキストを数冊買い…って全然本編に辿りつかないじゃないか。
とりあえずそんな飢餓状態の中でやっと見た本編です。
■新しき世界(2013・韓)
大手企業の皮を被った韓国最大の犯罪組織、ゴールド・ムーン。警察官イ・ジャソン(イ・ジョンジェ)がゴールド・ムーンに潜入して8年、彼は組織の中でもNo.2に位置するチョン・チョン(ファン・ジョンミン)の片腕として頭角を現していた。いつ正体がばれるかという恐怖と、兄のような情を寄せるチョンへの背信に苛まれていたが、ゴールド・ムーンの会長が不審な事故死を遂げたことから、彼の運命は大きく変わる。ジャソンの上司であるカン課長(チェ・ミンシク)は後継者争いに乗じて、組織の壊滅を画策。「新世界プロジェクト」と名付けられた陰謀に、ジャソンも否応なく巻き込まれていくが…
見終わった後ねえ、とにかく無性に切なかった。
「彼」に残されたものがあんまりにも大きくて。
冒頭目を覆いたくなるような暴力シーンに、その場所のトップとして顔を現すジャソン。海に蹴り落とされる裏切り者を詰めたドラム缶を眺めては、「いつか俺もこうなるかもしれない」と考えていたのではないだろうか。物憂げな眼差しで吸った煙草を捨てる、そんな暗い海辺の埠頭から、物語は始まる。
この映画には、そこかしこに死と血が付きまっている。一見強く見える人間ですら、誰もが誰かにひねりつぶされる可能性がある、そんな弱さや危うさを抱えて生きている。
前半は話の展開がやや冗長なところもあるが、各キャラクターを詳細に描いている分、後半の山での彼らの心情が分かりやすくなってもいる。
ジャソン視点の静かで暗い物語の中にあって、陽気で軽いノリの兄貴分、チョン・チョンの存在はひときわ異彩を放つ存在だ。韓国華僑の派閥を仕切るチョンは、いかにも大陸的なおおらかさがある。偽物のブランド品をジャソンにあげては突き返され、後継者についての話し合いの場ではウィンクすら投げる。まるでコメディアンのような役回りだが、中盤以降から見せるチョンの裏の顔は壮絶だ。
会長の息子、イ・ジュング(パク・ソンウン)の得体のしれない能面のような笑顔もいい。あの顔でゴルフクラブ振り回されたらそりゃ怖かろう。『独眼竜政宗』の勝新太郎をちょっとだけ柔らかくしたみたいなミンシクが待ってる倉庫も、私だったら恐ろしくて行きたくないけどな。
何かを書こうとすると全部核心に触れてしまうので、ここからは下手な書き方で隠すのを許してほしい。
表題作にもなっている「新世界」プロジェクトは、「全てを崩壊させ、新たな秩序をつくる」という意味で付けられたのだろう。しかしゴールド・ムーンだけを狙ったはずのプロジェクトは、くしくも組織だけでなく、壊滅にかかわった警察すら崩壊させてしまうのだ。
ある人間に「何も変わらない」と言われた後に、別の人物からまったく違う言葉を残された「彼」は、すべてを変えるべく動きだす。信じるべきものも、過去への未練も葛藤も、何もかもが消え去った後に残されたもの。
それはまさに、新しい世界だ。
ひたすら耐え忍んできた「彼」の初めての決意は、あまりにも非情で、孤独だった。
ファン・ジョンミンは、どちらかというと怖い役よりも皆が見られるほのぼのコメディーをやっていたい俳優さんらしいが、何をやってもそのキャラクターになりきってしまえるのが本当にすごい。上手すぎる。この映画を知る前まで全然知らなかったんですよこれでも。
あと、ジョンジェも最後のその顔はないよ…!!!
全体的に、意外なほど感情を抑えてある作品だ。息が詰まりそうな沈黙を守るジャソンと、煙草で感情を隠すカン課長、陽気な上っ面を持つチョン…皆が本心を見せようとはしない。彼らの過去描写も最後になるまで描かれないから、どんな経過をたどって今そこにいるのかが分からない。だから次に何が起こるか分からなくて悶える。悲劇だって分かっていても、それをぐっと固唾をのんで待ちかまえてしまう。結論としては、見る人をドMにする映画でした。
最後まできて言うことがこれか…。
あとね…ハングル能力検定申し込んじゃった…
★新しき世界公式サイト
2月1日が日本公開初日だったのですが、悲しいかなこちらで見られたのは4月になってからでした。その間私が何をしていたかというと、かけめぐる情報のみを眺めては血の涙を流しながら堪え、情報を追ううちにジョンミンにはまり、関連作をレンタルビデオ店で借りてきて観賞し、あるいは買い、雑誌を入手し(読めない)、韓国語のテキストを数冊買い…って全然本編に辿りつかないじゃないか。
とりあえずそんな飢餓状態の中でやっと見た本編です。
■新しき世界(2013・韓)
見終わった後ねえ、とにかく無性に切なかった。
「彼」に残されたものがあんまりにも大きくて。
冒頭目を覆いたくなるような暴力シーンに、その場所のトップとして顔を現すジャソン。海に蹴り落とされる裏切り者を詰めたドラム缶を眺めては、「いつか俺もこうなるかもしれない」と考えていたのではないだろうか。物憂げな眼差しで吸った煙草を捨てる、そんな暗い海辺の埠頭から、物語は始まる。
この映画には、そこかしこに死と血が付きまっている。一見強く見える人間ですら、誰もが誰かにひねりつぶされる可能性がある、そんな弱さや危うさを抱えて生きている。
前半は話の展開がやや冗長なところもあるが、各キャラクターを詳細に描いている分、後半の山での彼らの心情が分かりやすくなってもいる。
ジャソン視点の静かで暗い物語の中にあって、陽気で軽いノリの兄貴分、チョン・チョンの存在はひときわ異彩を放つ存在だ。韓国華僑の派閥を仕切るチョンは、いかにも大陸的なおおらかさがある。偽物のブランド品をジャソンにあげては突き返され、後継者についての話し合いの場ではウィンクすら投げる。まるでコメディアンのような役回りだが、中盤以降から見せるチョンの裏の顔は壮絶だ。
会長の息子、イ・ジュング(パク・ソンウン)の得体のしれない能面のような笑顔もいい。あの顔でゴルフクラブ振り回されたらそりゃ怖かろう。『独眼竜政宗』の勝新太郎をちょっとだけ柔らかくしたみたいなミンシクが待ってる倉庫も、私だったら恐ろしくて行きたくないけどな。
何かを書こうとすると全部核心に触れてしまうので、ここからは下手な書き方で隠すのを許してほしい。
表題作にもなっている「新世界」プロジェクトは、「全てを崩壊させ、新たな秩序をつくる」という意味で付けられたのだろう。しかしゴールド・ムーンだけを狙ったはずのプロジェクトは、くしくも組織だけでなく、壊滅にかかわった警察すら崩壊させてしまうのだ。
ある人間に「何も変わらない」と言われた後に、別の人物からまったく違う言葉を残された「彼」は、すべてを変えるべく動きだす。信じるべきものも、過去への未練も葛藤も、何もかもが消え去った後に残されたもの。
それはまさに、新しい世界だ。
ひたすら耐え忍んできた「彼」の初めての決意は、あまりにも非情で、孤独だった。
あと、ジョンジェも最後のその顔はないよ…!!!
韓国の儒教思想や父系社会の構造も垣間見えて興味深かったですが、ヤクザ(ギャング)の世界ってもともとこういう感じがあるかもしれない。それぞれの出身地で固まるところやホモソーシャルな世界の上下のつながりという点で。
(グチをちょっと)後半の幹部のおっちゃんたちはあんまりいらなかったなー、もったいない。その分、もっとジュングを描いてあげて!!彼もすごく可哀想な人間だから(涙目)!!個人的にはやはりギャング復讐映画『ロード・トゥ・パーディション』でダニエル・クレイグが演じた駄目息子(これがいい!!)並みにちゃんと描いてあげてほしかった。ソンウンの力演もあって、そこがなおさら惜しかった。全体的に、意外なほど感情を抑えてある作品だ。息が詰まりそうな沈黙を守るジャソンと、煙草で感情を隠すカン課長、陽気な上っ面を持つチョン…皆が本心を見せようとはしない。彼らの過去描写も最後になるまで描かれないから、どんな経過をたどって今そこにいるのかが分からない。だから次に何が起こるか分からなくて悶える。悲劇だって分かっていても、それをぐっと固唾をのんで待ちかまえてしまう。結論としては、見る人をドMにする映画でした。
最後まできて言うことがこれか…。
あとね…ハングル能力検定申し込んじゃった…
★新しき世界公式サイト
コメント
コメントを投稿